公務員の不祥事・炎上

総務省幹部接待問題の経過まとめ(2021)

令和3年(2021年)初頭、総務省職員が東北新社グループおよびNTTグループ関係者と繰り返し会食していた事実が報道で明らかになりました。

しかも、その会食の費用はほとんど企業側の“おごり”。さらに、その企業と総務省の間では、放送・通信に関わる許認可や制度設計のような「利害関係」があることもわかりました。

情報通信行政検証委員会の報告書によれば、東北新社では2016年〜2021年に計52件、NTTグループでは2016年〜2020年に計24件の会食が確認され、職員側の費用負担が不十分または無支払いの事例が多数あり、国家公務員倫理法・同規程違反に該当しました。

これにより、「行政が企業に忖度していたのでは?」という疑惑が浮上し、問題が深刻化したのです。

経過

平成27年(2015年)9月11日

経済財政諮問会議における安倍内閣総理大臣の発言を受け、携帯電話料金の低廉化に関する検討が開始されました。

平成27年(2015年)11月以降

総務省職員と東北新社グループとの会食が把握され始めました。

平成28年(2016年)7月以降

総務省職員とNTTグループとの会食が把握され始めました。

平成29年(2017年)1月

総務省が東北新社のBS左旋4K放送に係る衛星基幹放送事業者の認定を行いました。東北新社は外資規制違反状態でしたが、総務省は標準審査で認識し得ませんでした。

平成29年(2017年)8月頃

総務省が東北新社から放送法の外資規制違反状態にあることの報告を受け、これを認識した可能性が高いにもかかわらず、放送法に基づき認定取消しに向けた対応を行わず、むしろ子会社による事業承継を追認した可能性が高いとされました。

平成29年(2017年)10月1日

株式会社東北新社メディアサービスによる衛星基幹放送事業者の地位の承継の認可が行われました。

平成30年(2018年)10月19日

NTT持株の(役員)X氏とNTTドコモの(役員)Y氏が、総務省の総合通信基盤局長Bを訪問し、NTTドコモの携帯電話料金値下げについて情報提供を行いました。

令和元年(2019年)10月1日

電気通信事業法施行規則改正と併せて電気通信事業法改正が施行され、通信料金と端末料金の分離、端末代金値引き上限2万円、期間拘束契約上限2年・違約金上限1,000円、期間拘束なし契約の提供義務付けなどが導入されました。 NTTドコモが改正電気通信事業法等に沿って、2年定期契約等の解約金を1,000円に引き下げました。

令和2年(2020年)6月30日

菅官房長官が「大手3社の利益率も20%と高止まりしており、大幅な引き下げの余地がある」と発言しました。

令和2年(2020年)7月30日

NTT持株の(役員)Z氏、他1名が、総務省の電気通信事業部長D、事業政策課長Hを訪問し、NTT持株がNTTドコモの完全子会社化について検討していることや、同年10月初頭頃に株式公開買付を行うことを検討していることを説明し、相談を行いました。

令和2年(2020年)9月29日

NTT持株がNTTドコモの完全子会社化目的の株式公開買付を行うことを発表しました(買付期間:9月30日~11月16日、買付価格:3,900円/株、買付総額:約4.3兆円)。

令和2年(2020年)12月3日

NTTドコモがオンライン手続プランとして、月額2,980円(税抜き)の格安料金プラン「ahamo」を発表しました。
「公正競争確保の在り方に関する検討会議」が第1回開催されました。

令和2年(2020年)12月25日

NTTドコモの上場廃止がなされました。

令和3年(2021年)1月以降

総務省職員と東北新社グループ及びNTTグループの幹部との間で、国家公務員倫理法に抵触する会食等が発覚し、行政がゆがめられたのではないかとの疑念が生じる状況となりました。

令和3年(2021年)2月3日

文藝春秋『週刊文春』が「東北新社役職員による総務省幹部接待問題」を報じました。

令和3年(2021年)2月4日

衆院予算委員会で野党議員の追及に対し、当時の菅義偉内閣総理大臣は長男(当時40歳)との関係を否定し、「完全に別人格ですからね」と発言しました。

令和3年(2021年)2月19日

武田良太総務大臣が、接待を受けた秋本芳徳情報流通行政局長と湯本博信大臣官房審議官を2月20日付で官房付に異動させると発表しました。武田総務大臣は「今回の人事異動はまったく関係がない」と述べ、「事実上更迭」との見方を否定しました。

令和3年(2021年)2月22日

総務省が衆院予算委員会の理事会に、当時の内閣広報官山田真貴子が2019年11月6日に菅義偉内閣総理大臣の長男と会食していたとする調査結果を報告しました。
菅義偉内閣総理大臣が予算委員会で「長男が関係し、結果として違反する行為をすることになり大変申し訳なく思っている。国民におわびする」と陳謝しました。

令和3年(2021年)2月24日

総務省は国家公務員倫理規程に違反したとして、接待を受けた13人のうち11人を処分しました。重い処分である懲戒は9人で、谷脇康彦総務審議官ら7人が減給、2人が戒告となりました。残り2人は懲戒ではない処分で訓告と訓告相当とし、武田良太総務大臣は3カ月分の閣僚給与を自主返納すると発表しました。

令和3年(2021年)2月25日

山田真貴子内閣広報官が衆院予算委員会で参考人招致を受け答弁しましたが、「大きな事実ではない」などと発言し、混乱を招きました。
武田良太総務大臣は記者会見で、問題の責任を取って辞任する考えはないとの認識を示しました。

令和3年(2021年)2月26日

東北新社は、総務省幹部との接待に参加していた代表取締役社長二宮清隆が、引責辞任したと発表しました。メディア事業部の統括部長を務める菅義偉内閣総理大臣の長男も人事部付に更迭し、会食に参加した2人の執行役員を解任しました。

東京都や神奈川県の市民でつくる「検察庁法改正に反対する会」が、総務省幹部ら13人を収賄の疑いで、菅義偉内閣総理大臣の長男や社長を含む東北新社側の4人を贈賄の疑いで東京地検特捜部に告発しました。

令和3年(2021年)3月1日

山田真貴子内閣広報官が辞意を伝え、菅内閣は同日午前の持ち回り閣議で辞職を決定しました。

令和3年(2021年)6月4日

情報通信行政検証委員会が、東北新社に係る衛星基幹放送事業者の認定及びその地位の承継の認可について検証結果をまとめた第一次報告書を公表しました。

令和3年(2021年)7月1日

総務省は独自ルールとして、課ごとに職員の利害関係者一覧を作成すること、利害関係者との会食全てについて事前に届出を行うことや、事後に適切な自己負担をしたことを証明できる資料の作成・提出を義務付けました。

令和3年(2021年)10月1日

総務省情報通信行政検証委員会が、一連の会食問題に関する検証結果をまとめた最終報告書を公表しました。

会食の何がいけなかったのか?

一見すると、「ただの飲み会じゃないの?」「公務員も人間なんだから、誰かとご飯くらい行くでしょ?」と思うかもしれません。

しかし、公務員と企業の会食には明確なルールがあります。それが「国家公務員倫理法」という法律です。

国家公務員倫理法とは、国の職員(国家公務員)が不正や癒着を防ぎ、公正で信頼される行政を行うために定められたルールです。たとえば、企業や利害関係のある人から「おごってもらう」「贈り物を受け取る」「ゴルフなどに招待される」といった行為は原則禁止です。

これは、「仲良くなれば特別扱いしてもらえる」といった“ズル”を防ぐためです。税金で運営されている行政が一部の人の利益のために使われることがないよう、公平性と中立性を守る仕組みが求められます。

この法律では、違反が疑われる行為についての報告義務や、倫理監督官による調査制度も整っています。ただし、形式的な運用にとどまりがちという指摘もあり、近年の会食問題ではこの法律の「限界」や「運用の甘さ」が問われました。

なぜ企業は公務員と会食をしたのか?

企業側の目的は明確です。それは、「行政判断に影響を与えたい」あるいは「自分たちにとって不利な判断を避けたい」という思惑です。

たとえば、東北新社は「BS放送のチャンネル」をめぐって認定を受ける必要がありました。

NTTグループは「携帯料金の引き下げ」や「企業再編」などを巡って総務省の方針を探っていたとされます。

企業は、担当者が異動してくるたびに“顔合わせ”の名目で会食を開いていました。それが年に何十回と続き、「業界の慣行」として定着していた面もあります。

企業にとっては、行政に嫌われるよりも、好かれていた方が有利になる。だからこそ、金をかけてでも関係づくりを行うインセンティブがあったのです。

公務員側にはどんな心理や背景があったのか?

多くの公務員は、「そこまで深く考えていなかった」というのが実情でしょう。中には、

  • 「慣習として続いていた」
  • 「前任者もやっていた」
  • 「業界の話を聞くためだった」

と語った人もいます。

特に問題視されたのは、自分で飲食費を払わなかったケースが多数あったことです。「今度払います」「出しそびれました」といった言い訳もありましたが、実際には高級レストランで何万円もの接待を受けていた例もありました。

また、会食が「異動後のあいさつ」や「日頃の情報交換」として当たり前のように行われていたことで、倫理観が鈍っていた可能性があります。

結局、行政の判断は歪められたのか?

実際の政策判断(たとえば放送認定や料金政策)について、接待の影響があったかどうかは調査でも結論が分かれる部分です。

たとえば、以下のような問題点がありました。

  • 東北新社が外資規制違反の状態で認定された(2017年)
  • その後、違反に気づいたが、子会社に事業を引き継がせる形で“追認”した

この「追認」については、「行政判断がゆがめられた」と強く批判されました。

一方、NTTグループとの関係では、「携帯料金の引き下げ」や「ドコモの子会社化」などの政策判断が実際に行われましたが、それらが会食の影響を受けたとは直接的には証明されていません。

なぜ問題はここまで大きくなったのか?

この問題が大きな社会問題になった理由のひとつは、当時の総理大臣・菅義偉氏の長男が、東北新社の社員として接待に同席していたことです。

「親の力を利用して会社を優遇させているのでは?」

「企業と政治がつながっているのでは?」

という批判が起こり、国会でも激しい追及が行われました。

加えて、会食に関わったのが、総務省の中でもトップクラスの幹部だったことも問題を深刻化させました。信頼されるべき高官が不適切な接待を受けていたことで、組織全体の信用が落ちたのです。

どんな対策が取られたのか?

事件を受けて、総務省は以下のような対策を講じました。

  • 利害関係者との会食は事前に届出が必要
  • 会食費用は全額自費で払った証拠(領収書)を残すルールに
  • 若手職員による組織風土改革チームの設置

また、関与した幹部職員11人に対して懲戒処分が下され、うち何人かは辞職しました。

政治的にも、菅内閣や自民党への不信感が広がる一因となりました。