公務員の不祥事・炎上

国土交通省OBによる人事介入問題(2023)

民間企業に国土交通省のOBが副社長のポストを要求して就任していた問題。さらに、元事務次官がその副社長を社長にするよう要求したことも発覚しました。

関係者

A
空港施設株式会社 副社長
(元 国土交通省東京航空局長)
→問題発覚後に辞任

B
元 国土交通省事務次官
東京メトロ会長
→問題発覚後に退任

C
空港施設株式会社 社長
→問題発覚後に退任

D
空港施設株式会社 会長
→問題発覚後に退任

E
国土交通省航空局長
→問題発覚後に辞職

空港施設株式会社
羽田空港等にあるビルの運営などを手がける民間企業。1970年設立。国土交通省系のOBが社長に就いていたが、社長肝いりの事業の損失を出すなどして経営刷新を求める声があり、2021年からはJAL出身のCとANA出身のDという体制になっていた。
同社の事業をめぐっては、国有地の使用や、貨物施設の賃貸事業に必要な事業者指定など、国交省が多くの許認可権を持っている。

経過

2020年6月
国交省東京航空局長のAが、民間企業である空港施設社の取締役に就任。

2021年5月
Aが社内の幹部会議で、代表権のある副社長に自身が就くことを要求。国交省の意向としつつ、「バックにいる人たちがどう思っているか」などと語る。

2021年6月29日
Aが空港施設社の副社長に昇格。同日、国交省大臣官房総務課の現役職員から、国交省職員の入省年次やポストが整理されたメール(件名:【送付】線引き)がAを含めたOBにBCCで送信される。

2021年6月30日
国交省航空局職員監理室人事係からAを含む複数の宛先に対し、1~4日後に発令される航空局の人事異動の対象者の名前や役職データが送信される。宛先には局内、各課、地方支分部局等のほか、関係企業、業界団体等が含まれる。

2022年12月13日
Bが空港施設社を訪ね、空港施設社社長のC及び同社会長のDと面会。副社長に就いているAを、2023年6月に予定される役員人事で社長にするよう求める。その際に「有力な国交省OBの名代として来た」との趣旨の発言。Aが社長になれば「国交省としてサポートする」とも話す。

空港施設社側は、「上場企業なので、しっかりした手続きを踏まないとお答えが難しい」と答える。

Bは後日、空港施設社の首脳と面会した経緯について「幾人かの私の知り合いの議論の中で、お願いというか相談に行ってこいというお話があった。幾人かの希望とか考えを伝えに私が行った」と説明。国交省OBによる議論だったとし、国交省出身者に社長に就いてほしいとの希望があるのかどうかについては「そういう思いを持っている方はいる」と回答。

2022年12月28日
国交省航空局職員監理室人事係からAを含む複数の宛先に対し、1~4日後に発令される航空局の人事異動の対象者の名前や役職データが再び送信される。宛先には局内、各課、地方支分部局等のほか、関係企業、業界団体等が含まれる。

2023年3月28日
Bが国交省の現役航空局長Eと会食。Eは、会食の目的は「地域経済の状況や航空事情についての意見交換」であり、「再就職のあっせんに関わる話はしていない」と説明。

2023年3月30日
朝日新聞が、2022年12月13日の人事介入疑惑を報道。Bは取材に対し、「関係のある方々に懸念、不快感を招いたとすれば、私の軽率な行動の不徳のいたす限り。反省しなければならない」と述べる一方で人事への介入については否定。官房長官は同日の記者会見で、「国交省からは本件に関与していないと聞いている」と述べた。

2023年4月3日
Aが空港施設社の副社長を辞任。本人からの申し出によるもので、「一身上の都合」としている。国土交通大臣は取材に対し、Aの辞任について「民間企業の人事なので、コメントすることはない」と述べた。
同日、国交省はBへの聞き取り調査の結果を明らかにし、「Bが空港施設社の人事に介入するような発言をしたことを事実」と認めた。

2023年4月10日
空港施設社が検証委員会を設置。また、空港施設社監査役(元観光庁長官)が一身上の都合により辞任。

2023年6月26日
国交省は、3月28日のBEらの会食で、利害関係にある建設資材業者から接待を受け、土産をもらったとして、Eを戒告の懲戒処分にしたと発表。

2023年6月27日
B
が東京メトロ会長を退任。

2023年6月29日
空港施設社はCの取締役再任を提案したが、主要株主のJALとANAホールディングスの反対により否決され、Cは即日退任した。
ANAホールディングスの広報は取材に、Cの再任案に反対した理由について「人心を一新すべきだと判断した」と説明、JALは「回答は差し控える」とした。JAL幹部のひとりは取材に「人事介入へのきぜんとした対処が遅きに失したのではないかとして、Cの経営責任を問う声が社内にはあった」と明かした。

なお、空港施設社の提案どおり会長Dが退任。

2023年7月4日
E
が国交省航空局長を辞職。

人事異動の線引きは行政文書か私的文書か

国交省の現役職員がAらに送信した「線引き」と呼ばれる人事情報資料について、行政文書にあたるか否かが話題となった。

野党の議員は、「線引きはポストごとに新任者名と入省年、前職、後任者が”玉突き”のように記された詳細な資料で、退職者情報にもなる」として行政文書にあたると指摘し、資料の開示を要求。

これに対して国交省側は、「線引きは若手職員が業務外で作成した私的文書であり、行政文書ではない」として開示を拒否した。

会計検査院でも未公表人事情報の外部提供が判明

2023年5月29日、内閣人事局は、全省庁を対象に、未公表の人事情報を外部提供しているケースがないかなどの確認依頼を発出。

2023年6月27日、会計検査院が公表前の人事情報をOBに提供していたことが判明。会計検査院では、一部の職員が希望したOBに対し公表前の内示情報を提供していた。

また総務省や厚生労働省では、人事情報が業務外で取りまとめられていた。

一方、現職の職員やOBが関与した組織的な人事のあっせんは確認できなかったとしている。

国家公務員制度を担当する河野デジタル大臣は、記者会見で、今後は人事情報を公表前に外部に提供することを原則禁止する方針を示し「改めて緊張感を持って再就職などの規制の順守・徹底を図りたい」と述べた。