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かつては「安定した職業」の代名詞として選ばれていた地方公務員。
しかし、近年そのイメージに陰りが見えはじめています。
採用しても内定辞退が相次ぎ、せっかく入庁しても数年で退職──。
北海道内の各自治体でも、公務員の人材確保をめぐる危機が進行しています。
本記事では、室蘭市・根室市・函館市・北広島市の4自治体をケーススタディとして、直面する課題と対応策を整理します。
室蘭市:内定辞退率35%超、5年で46人が自己都合退職
北海道西部に位置する室蘭市では、近年職員の流出が加速しています。
2024年度の自己都合退職者は13人。
前年度比で7人増え、過去5年間で累計46人が自己都合で退職しました。
退職理由には、結婚を機にパートナーの居住地である札幌圏などへの転職が多く見られるほか、「業務負担の多さ」や「職場のストレス」も背景にあるとされます。
また、内定辞退率も高水準で推移。2023年度は35.7%と、3年連続で3割超え。
受験者が同時に併願する千歳市や北広島市などを選ぶ例が増え、自治体間での“人材争奪戦”も過熱しています。
市では若手職員による提案制度や部分休暇制度の拡充などを通じ、「風通しのよい職場づくり」を進めていますが、人材定着の決定打は見つかっていません。
室蘭市、職員確保に苦慮 自己都合退職5年で46人 登別や伊達も厳しく:北海道新聞デジタル
根室市:欠員37人、採用年齢制限を50歳まで引き上げ
北海道の最東端に位置する根室市では、2024年4月時点で市役所職員が37人不足するという深刻な事態に直面しています。
中途退職者の補充が追いつかず、特に技術職の欠員が目立ちます。
注目すべきは、2024年度の退職者21人中、定年退職者がわずか1人である点です。
残りの20人はすべて中途退職であり、理由は「親の介護」や「他自治体への転職」など多岐にわたります。
中でも経験豊富なベテラン職員の退職は、市の行政運営にも大きな影響を及ぼしています。
採用においても苦戦が続き、大卒・社会人向けの第1期採用では内定者4人中3人が辞退。
そのため、試験は第4期(12月)まで実施される事態に。
こうした状況を受け、市は社会人採用の年齢制限を50歳以下に引き上げ、市外在住者の保護者への周知活動など、あらゆる手段で人材確保に取り組んでいます。
根室市役所、欠員37人 相次ぐ転職・退職 民間賃上げで新規採用も苦戦:北海道新聞デジタル
函館市:内定辞退率52%、過去10年で最悪の数字に
道南の中心都市・函館市では、2025年度の内定辞退率が52.0%に達し、過去10年間で最も高くなりました。
行政一般職の試験では、159人中50人が合格したものの、うち26人が辞退。
特に道央圏の自治体への就職を選ぶケースが多くみられました。
さらに、受験者数自体も10年前の半数以下に落ち込んでおり、公務員という職業の“ブランド力”が低下している現実が見て取れます。
市は試験の簡素化や受験機会の拡大に取り組んでおり、全国300カ所以上のテストセンターを活用して1次試験を実施。
また、民間経験者向け試験のハードルも下げており、多様な人材の受け入れに注力しています。
函館市職員、大卒内定辞退52% 過去10年で最も高く 併願増?受験者は半減:北海道新聞デジタル
北広島市:“ボールパーク効果”で採用人気上昇、倍率13倍も
一方、採用に成功している例として挙げられるのが北広島市です。
2024年度の採用数は過去最多タイの31人で、前年度の約2倍に。倍率も10倍を超え、2025年度には13倍にまで跳ね上がりました。
背景にあるのは、「北海道ボールパークFビレッジ(BP)」の開業に伴うイメージ向上とまちづくり需要の高まり。28年の新駅開業や大学移転など、都市としての成長ストーリーが若者の心をつかみ、志願者が急増しました。
市の採用担当者によると、受験者の8〜9割が“BPを通じたまちづくり”を志望理由に挙げたとのこと。札幌市や北海道庁の内定を辞退して北広島市に入庁する例もあり、同市は現在「選ばれる自治体」として注目を集めています。
札幌市内定辞退者も 北広島市職員、前年度2倍の31人採用 倍率は10倍超 BP開業でイメージアップ:北海道新聞デジタル
共通課題と今後の展望:求められる“構造転換”
4市を比較して見えてくるのは、以下のような共通課題です。
- 職員の定着率が下がっている
- 民間企業との賃金・職場環境競争に苦戦している
- 採用しても内定辞退が多く、計画通りに人が確保できない
- 中途退職は若手からベテランまで幅広く、原因も多様
一方で、北広島市のように「魅力ある都市ビジョン」を示せる自治体は、逆風の中でも志望者を集めることができています。
単に休暇制度やハラスメント対策を打ち出すだけでは不十分で、自治体の「未来像」と「そこに自分が関われる実感」が求職者に伝わるかどうかが鍵です。
おわりに:公務員採用は“売り手市場”へ──変化に対応できる自治体が生き残る
かつての「公務員神話」が崩れつつある今、地方自治体は大きな岐路に立たされています。
「安定性」や「社会貢献」だけでは、若者の心は動きません。
これからの公務員採用には、まちづくりへの参画意識を育てるストーリー性と、働きやすさ・働きがいを両立させる環境整備が求められます。
採用活動はもはや「試験を実施すれば人が来る」時代ではありません。
“選ばれる自治体”であるための努力と工夫こそが、持続可能な地域行政の土台になるでしょう。