目次
皆さんは、給与明細で「長期掛金」や「短期掛金」という聞き慣れない項目を目にして戸惑うかもしれません。
これらは何のために給与から引かれているのでしょうか。
本記事では公務員の長期掛金とは何かを解説し、長期掛金が高い理由や短期掛金との違いについてもわかりやすく紹介します。
年金・医療保険制度と共済組合
日本ではすべての労働者が公的年金と公的医療保険に加入し、保険料(掛金)を支払っています。
民間企業の会社員は厚生年金保険と健康保険に加入します。
一方、公務員は共済組合という公的組合に加入する点が特徴です。
共済組合とは、公務員や私立学校職員などに対し、医療保険や年金基金などの社会保障を提供する公的な組合です。
公務員は所属する共済組合に自動的に加入し、給与から掛金を納めることで、自身と扶養家族の医療保障や将来の年金給付を受ける仕組みになっています。
共済組合の掛金には短期掛金(医療保険料)と長期掛金(年金保険料)があり、さらに40歳以上では介護掛金(介護保険料)も加わります。
公務員の長期掛金とは何か?その目的と仕組み
長期掛金とは、公務員の退職後の年金など将来の年金給付のために給与から天引きされる掛金です。
「長期」という名の通り、長期的な給付である年金(老齢・障害・遺族年金)の財源に充てられる保険料で、公務員の給与明細では「長期掛金」と表記されます。
これは民間でいう厚生年金保険料にあたり、公務員固有の年金払い退職給付(退職金の年金払い)に係る掛金も含まれます。
長期掛金として集められたお金は、国や自治体(雇用者)の負担金と合わせて公務員年金の原資となります。
公務員の年金給付には退職共済年金(老齢年金)、障害共済年金、遺族共済年金の3種類がありますが、長期掛金はそれらの財源に充てられています。
現在、公務員の年金制度は民間の厚生年金と統一されており、長期掛金の計算方法や給付内容も厚生年金と同様です。
掛金額は給与(標準報酬月額)や賞与に定められた掛金率を乗じて算出されます。
長期掛金の保険料率は全国一律で、令和元年以降厚生年金保険料率は法律上限の18.3%(労使合計)に達しています。
このうち公務員本人が負担するのは半分の約9.15%で、残り半分は国や地方公共団体が事業主負担金として拠出するため、保険料は労使折半となっています。
長期掛金はなぜ高い?公務員の掛金が高いと感じる理由
新人公務員が初めて給与明細を見ると、「長期掛金でこんなに引かれている!」とその金額に驚くことが少なくありません。
長期掛金(年金保険料)は給与の約9%にもなるため、月給20万円なら毎月約1万8千円が天引きされ、手取り額へのインパクトが大きいからです。では、なぜ公務員の長期掛金は高いと感じるのでしょうか。
それは、年金制度全体で保険料率が高めに設定されているためです。
公務員だけでなく民間も含め、将来の年金財源を確保するため厚生年金の保険料率は約18%という高い水準になっています。
その結果、公務員の長期掛金も必然的に大きな金額となり、「高い」と感じられるわけです。
次に、公務員の年金にはかつて民間にない「職域加算」(年金の3階部分)があり、その分共済掛金が割高だった経緯があります。
2015年の被用者年金一元化で職域加算は廃止され、代わりに年金払い退職給付(退職金相当の年金給付)が導入されました。
その掛金(約0.75%)が現在の長期掛金に含まれているため、民間にはない上乗せ部分がわずかに残っているのです。
とはいえ上乗せ幅はごく小さいため、現在の長期掛金率は民間の厚生年金保険料率とほぼ同じ水準と考えてよいでしょう。
短期掛金とは何か?長期掛金との違い
一方、短期掛金とは、公務員の健康保険(医療保障)のために給与から控除される掛金です。
共済組合の短期給付事業(医療・休業補償など短期的な給付)の財源となる保険料で、民間企業の健康保険料に相当します。
公務員の給与明細には「短期掛金」と記載され、公務員本人や家族の医療費負担を軽減するための制度運営に充てられます。
例えば、診療の自己負担分以外の医療費や高額療養費、傷病手当金や災害見舞金など公的医療保険の給付に使われるお金です。
長期掛金と短期掛金の違いは、その用途と自分に戻ってくる形にあります。
長期掛金が将来の年金という形で後から自分に返ってくるお金であるのに対し、短期掛金は現在の医療保障のための費用で、自分や家族が病気・負傷したときに保険給付という形で役立つものです。
短期掛金は健康であれば直接手元に戻ることはありませんが、その分公務員と家族は公的医療保険による手厚い保障(窓口負担の軽減や高額療養費の給付など)を受けることができます。
公務員の給与明細における長期掛金の位置づけ
公務員の給与明細では、「長期掛金」「短期掛金」「介護掛金」といった項目が社会保険料の控除欄に並んでいることがあります。
民間企業の給与明細で「厚生年金保険料」「健康保険料」と表記されるものが、公務員の場合は「長期掛金」「短期掛金」という名称になっているわけです。
これらはすべて給与から天引きされる社会保険料で、所得税や住民税とは別枠で差し引かれます。
なお、共済掛金は民間の社会保険料と同様に社会保険料控除の対象です。
支払った長期掛金・短期掛金の分だけ所得税や住民税が軽減されるメリットもあります。
自分の給与から毎月どれくらい社会保険料が差し引かれているか、ぜひ把握しておきましょう。
まとめ
長期掛金は毎月の手取り額を減らしますが、それは将来の自分への投資と考えることもできます。
強制的に一定額が天引きされることで、自分で貯金しなくても老後資金を積み立てているのと同じだからです。
とはいえ、現役時代は掛金負担により手取り収入が減るのも事実なので、住宅ローンや子育てなど大きな支出は手取りベースで無理のない計画を立てることが重要になります。
要するに、公務員の長期掛金は厚生年金保険料のことで、今は手取りが減っても将来は年金として返ってくるお金です。
短期掛金との違いも正しく理解し、手取り収入に合わせて家計管理を行えば、公務員として安定したライフプランを描くことができるでしょう。