公務員の給料・福利厚生

公務員はなぜ7時間45分勤務?制度の背景と民間企業との違いを徹底解説

国家公務員の勤務時間は、1日7時間45分、1週間38時間45分と定められています。「なぜキリの良い8時間ではなく、7時間45分なのか?」と疑問に思ったことはありませんか?

この勤務時間は、2009年(平成21年)に制度改定によって設定されたもので、そこには「民間企業の勤務実態との均衡」という明確な理由があります。

この記事では、公務員の勤務時間制度が現在の形になった経緯と背景、制度を支える人事院勧告の意義、民間企業との違い、さらには勤務時間短縮がもたらした行政への影響やワーク・ライフ・バランスへの寄与などを解説します。

なぜ「7時間45分」なのか?改定の背景

国家公務員(一般職)の勤務時間は法律により、週あたり38時間45分と定められています。この時間を平日5日で均等に割ると、1日あたり7時間45分という勤務時間になります。

以前は、1日8時間、週40時間が標準でした。しかし、2009年4月1日の制度改定により現在の時間へと短縮されました。

この勤務時間短縮は、平成20年(2008年)の人事院勧告に基づいて行われました。その最大の目的は、「民間企業との勤務条件の均衡を図る」ことにあります。

人事院は毎年、企業規模50人以上の民間事業所を対象に、所定労働時間などの勤務条件を調査しています。2008年の調査では、民間企業における事務・管理職における所定労働時間の平均は、

  • 1日あたり:7時間45分
  • 1週間あたり:38時間49分

とされていました。これは、当時の公務員の勤務時間(1日8時間、週40時間)よりも明確に短い水準でした。

出典:平成20年人事院勧告

民間との均衡を図る「人事院勧告制度」

公務員は労働基本権が制限されている代償として、給与や勤務条件を人事院勧告により調整する制度があります。

この勧告制度では、民間の水準と公務員の条件が大きく乖離しないよう、「情勢適応の原則」に基づき勤務時間も調整されます。7時間45分という時間は、民間の平均に合わせたものです。

また、多くの企業で労働時間管理が15分刻みで行われていることもあり、民間の実態と整合性を取るために「15分単位」での短縮がなされたと考えられます。

勤務時間の短縮にあたっては、行政サービスを維持しながらも、人件費や定員数の増加を伴わない形での対応が求められました。

人事院は各府省に対し、業務の効率化や勤務体制の見直しなどによって、予算や人員の範囲内で対応可能であるとしています。

また、各職員に対しても、自身の業務遂行方法を見直し、公務能率の向上に努めることが求められました。特に、当時は行政に対する国民の信頼が揺らいでいた時期であり、公務員一人ひとりの使命感と倫理意識が強く問われる局面でもありました。

勤務時間短縮には、民間との均衡だけでなく、職員の生活の質(QOL)向上への期待も込められていました。

働く時間が短くなることで、家庭や地域での活動時間が増え、ワーク・ライフ・バランスの実現につながると考えられました。これは、公務員の意欲や満足度の向上を通じて、間接的に行政サービスの質向上にも貢献する可能性を持っていたのです。

公務員と民間企業の勤務時間の違い

民間企業の勤務時間は業種や企業規模によって様々ですが、2008年時点の調査では以下のような傾向が見られました。

  • 所定労働時間が「7時間45分未満」の事業所:54.3%
  • 「7時間45分ちょうど」の事業所:19.3%
  • 「8時間ちょうど」の事業所:37.4%

このことから、公務員の「7時間45分」という勤務時間は、最も一般的とは言えないものの、当時の民間の実態に照らせば「主流に近い時間設定」であったと言えます。

出典:平成20年人事院勧告

多様な勤務形態も存在する中で、制度改革の一環としての勤務時間短縮

公務員の勤務時間は一律ではなく、職務の特性や個々の事情に応じて柔軟な働き方が可能となっています。

例えば:

  • 再任用短時間勤務職員:週15時間30分〜31時間
  • 育児短時間勤務職員:週19時間25分〜24時間35分の範囲で複数パターン
  • 任期付短時間勤務職員:週10時間〜19時間20分
  • 船員職員:職務の特殊性により、週最大40時間まで延長可能
  • 裁量労働制の研究員など:実働にかかわらず、7時間45分勤務したものとみなされる

このように、公務員制度では個々のライフステージや職種に応じた柔軟な働き方が整備されています。

勤務時間改定は、公務員制度改革の流れの中で実施されました。

当時、人事管理制度や早期退職慣行、キャリアシステムなどの見直しが進められており、勤務時間の短縮もその一環でした。

人事院は、制度改革と並行して、公務員一人ひとりの意識改革も重要と位置づけています。行政運営の信頼回復には、制度と意識の両面からのアプローチが必要とされていたのです。

まとめ

国家公務員の勤務時間が「1日7時間45分」に設定されているのは、民間企業の労働時間との整合性を図るための人事院勧告に基づいています。そこには、社会全体の働き方の実態を反映し、かつ行政の効率性を保つという意図が込められています。

勤務時間短縮は、ただ労働時間を減らすだけでなく、業務の見直しや働き方の改善を通じて、より能率的な行政を実現する契機ともなりました。加えて、ワーク・ライフ・バランスの推進や柔軟な働き方の選択肢拡大にもつながっています。

公務員制度を理解するうえで、「勤務時間」という視点からのアプローチは、制度全体の意義を知る良い手がかりとなるはずです。

出典:平成20年人事院勧告