ボーナス

公務員にボーナスはずるい?制度の仕組みと民間との違いをわかりやすく解説

公務員のボーナスはなぜ「ずるい」と言われるのか

民間企業で働く人にとって、公務員のボーナスは

なぜあんなにもらえるのか
税金から支払われているのは不公平だ

と感じられがちです。

特に景気変動で民間企業の業績連動型ボーナスが大きく上下する中、公務員のボーナス制度は安定しており、「年功序列で毎年上がる」イメージもあります。

このような表面的な印象から、感情的に「ずるい」と思う人が少なくありません。

特に、ご自身のボーナスが不安定な状況にある場合、景気に左右されにくい公務員の待遇に納得がいかないと感じるのも無理はないかもしれません。

公務員のボーナスが「成果を出していないのに」安定して支給されるように見える背景には、民間企業とは異なる給与決定の仕組みがあります。

一般的に、公務員のボーナスは景気変動による影響が民間企業に比べて小さいとされています 。

この安定性が、経済状況によっては民間との格差を際立たせ、不公平感を生む一因となっているのかもしれません。

この記事では、公務員のボーナス制度の仕組みや社会的背景を分かりやすく解説します。

ボーナスの法的根拠と制度設計(給与法・人事院勧告)

国家公務員の給与やボーナスは、「一般職の職員の給与に関する法律」(給与法)に基づいて定められています。この法律の中で、ボーナスに相当するものとして「期末手当」と「勤勉手当」が規定されています。

  • 期末手当:民間のボーナスのうち、比較的固定的な部分に相当する手当です。原則として6月1日と12月1日に在籍する職員に支給されます。
  • 勤勉手当:民間のボーナスのうち、勤務成績や業績に応じて変動する部分に相当します。職員の勤務成績に基づいて支給額が決定されます。

これらの手当は、法律で定められた公務員の給与体系の一部であり、安定的な支給が保障されています。

公務員の給与水準、特にボーナスの支給月数は、独立した第三者機関である「人事院」が出す「人事院勧告」によって大きく左右されます。

国家公務員は労働基本権の一部(ストライキ権など)が制約されているため、自ら給与交渉を行うことができません。

その代償措置として、人事院が毎年、民間企業の給与実態を詳細に調査し、公務員の給与水準が民間に見合っているか(民間準拠の原則)を検証し、国会と内閣に勧告を行います。

人事院は、役職や勤務地、学歴などが同等の国家公務員と民間従業員の給与を比較する「ラスパイレス比較」という手法などを用いて、官民の給与差を算出します。

例えば、2024年度の人事院勧告では、民間企業のボーナス支給月数が国家公務員を上回っていたため、国家公務員の年間支給月数を4.50ヶ月から4.60ヶ月へと0.10ヶ月引き上げるよう勧告されました。

このように、人事院勧告は民間企業の動向を反映して変動するため、公務員のボーナスも常に一定というわけではありません。過去には引き下げられた年もあります。

人事院勧告とは何か?公務員の給与決定の仕組みを解説皆さんは、公務員の給与がどのように決まっているかご存じでしょうか。 公務員の給与は、人事院勧告という仕組みによって毎年見直しが行わ...

出典:
一般職の職員の給与に関する法律|e-Gov 法令検索
令和6年人事院勧告|人事院

民間企業との違い:成果型 vs 職務給の違い

公務員の給与は、基本的に「職務給」の原則に基づいています。

これは、担当する仕事の種類、複雑さ、困難度、責任の度合いなど、その「職務」の内容に応じて給与が決定されるという考え方です。

各職務には俸給表という給与の基準が定められており、個人の成果が直接的に給与額を大きく左右するわけではありません。

一方、多くの民間企業では「成果主義」が重視され、個人の成果や所属する部署、企業全体の業績がボーナス額に大きく反映されます。

業績が好調であればボーナスは増え、不振であれば減額されたり、支給されなかったりすることも珍しくありません。

ただし、公務員のボーナスにも「勤勉手当」という形で勤務成績が反映される仕組みは存在します。

これは民間の業績連動型賞与に近い性質を持つと言えますが、給与全体に占める割合や変動幅は、成果主義を徹底する民間企業とは異なる場合があります。

特徴 公務員(国家公務員) 民間企業(典型例)
ボーナスの法的根拠 給与法に基づき支給義務あり 会社の就業規則や労働契約による。法律上の支給義務はない場合が多い
主な給与決定の考え方 職務給(職務の内容・責任に基づく) 成果主義(業績・成果に基づくことが多い)
ボーナス水準の決定要因 人事院勧告(民間給与との比較) 企業業績、業界動向、個人評価など
成果・業績の反映 勤勉手当に勤務成績を反映 ボーナス全体に個々人や企業の業績が大きく反映され、変動幅も大きい傾向
安定性 景気変動の影響を受けにくく、比較的安定 景気や企業業績により大きく変動する可能性あり

出典:国家公務員の給与制度の概要|人事院

なぜ税金から出ているのか?それは本当に不公平なのか

公務員の主な仕事は、国や地方自治体が行う「行政サービス」を提供することです。

これには、外交・防衛、治安維持、教育、社会福祉、インフラ整備など、国民生活に不可欠なものが含まれます。これらのサービスは、民間企業のように利益を追求するものではありません。

公共サービスは利益を生まないため、その活動資金は国民や企業から集められる税金によって賄われます。これには、当然ながら公務員の人件費も含まれます。

質の高い公共サービスを安定的に提供するためには、優秀な人材を確保し、その意欲を維持することが不可欠です。

もし公務員の待遇が民間企業に比べて著しく低い場合、有能な人材が公務員という職業を選ばなくなり、結果として行政サービスの質の低下を招く可能性があります。

ボーナスを含む適正な給与水準を保つことは、国民全体の利益に繋がる投資とも言えるのです。

また「税金から支払われるのは不公平だ」という感情に対しては、まず、公務員の給与水準が人事院勧告を通じて民間企業の水準と均衡が図られている点が重要です。

つまり、税金が不当に高い給与のために使われているわけではなく、市場の相場に見合った対価として支払われているという考え方です。

さらに、見落とされがちですが、公務員自身も国民の一人として、その給与やボーナスから所得税や住民税、社会保険料を納めています。

支給された給与の一部は、税金として再び国や自治体に戻っているのです。

公務員の待遇は本当に恵まれているのか?数字で見る実態

人事院勧告の資料を見ると、勧告が出される前の段階では、民間企業の給与水準が公務員を上回っているケースが少なくありません。

例えば、2023(令和5)年度の人事院勧告では、国家公務員の月例給は民間より平均で3,869円(0.96%)低く、ボーナス(年間支給月数)も民間が4.49ヶ月だったのに対し公務員は4.40ヶ月でした。

このため、人事院は公務員の月例給とボーナスを引き上げるよう勧告しました。

また、2024(令和6)年度の勧告でも、月例給において民間のほうが11,183円(2.76%)高いという結果が示され、ボーナスも0.1ヶ月分の引き上げが勧告されています。

地方公務員についても、各自治体の人事委員会が同様の調査・勧告を行っており、例えば2023年にはさいたま市や千葉県でも、民間給与との比較に基づき給与やボーナスの引き上げが勧告されています。

これらのデータは、公務員の給与が常に民間より優遇されているわけではなく、むしろ民間の水準に追いつく形で調整されることが多いことを示唆しています。

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厚生労働省の毎月勤労統計調査などを見ると、民間企業のボーナス平均額は企業規模によって大きく異なります。

例えば、2023年夏季賞与の平均額は、調査産業計で約39万円でしたが、企業規模500人以上では約66万円に達しています。一方で、国家公務員(管理職を除く行政職職員)の2024年6月期のボーナス平均支給額は約65万9,400円でした。

「公務員のボーナスは民間の2倍」といった情報もありますが、これはボーナス支給額が低い中小企業も含めた全体の平均と比較した場合のことであり、公務員と給与体系が比較されやすい大企業の水準とは必ずしも大きくかけ離れているわけではありません。

対象区分 国家公務員(行政職・管理職除く) 民間企業(調査産業計) 民間企業(従業員500人以上)
夏季ボーナス平均(円) 約659,400 (2024年6月期) 約397,000 (2023年) 約665,000 (2023年)
冬季ボーナス平均(円) 約674,300 (2023年12月期) 約393,000 (2022年) 約642,000 (2022年)
年間支給月数(人事院勧告ベース) 4.50ヶ月 (2023年度)
4.60ヶ月 (2024年度勧告)
4.49ヶ月 (2023年度人事院勧告の民間実績)

確かに公務員のボーナスは安定していますが、これらの数字は、公務員の待遇が一方的に「恵まれすぎている」というイメージを相対化する一助となるでしょう。

出典:
令和6年6月期の期末・勤勉手当を国家公務員に支給|内閣官房内閣人事局
令和5年12月期の期末・勤勉手当を国家公務員に支給|内閣官房内閣人事局
毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査) 結果の概要|厚生労働省

「妬むよりも制度を知る」ことで見える公務員という仕事の価値

公務員は、私たちの暮らしに欠かせない多様なサービスを担っています。

国の安全保障から、地域の福祉、教育、環境保全に至るまで、その仕事は社会の基盤を支えるものです。

彼らは営利を目的とせず、常に公平公正な視点から公共の利益を追求する姿勢が求められます 。

公務員の雇用の安定性は、単に個人の利益のためだけではなく、公共サービスを継続的かつ公平に提供するために必要な条件でもあります。

その職務には、時に厳しい判断を迫られたり、大きな責任を伴ったりすることも少なくありません。

ボーナスを含む給与は、こうした重要な役割を担う人材を確保し、その努力と貢献に報いるためのものです。

公務員の待遇を単純に引き下げることは、巡り巡って公共サービスの質の低下につながる可能性も指摘されています。

制度を理解することで、公務員の仕事が持つ社会的な価値や、その給与体系が持つ意味について、新たな見方が生まれるのではないでしょうか。

まとめ:税金であっても「透明性の高い仕組み」で支給されていること

公務員のボーナスは税金から支払われていますが、その決定プロセスは決して不透明なものではありません。

給与法という法律に基づき、「期末手当」「勤勉手当」として明確に位置づけられています。

そして、その水準は、人事院という独立した機関が民間企業の給与実態を詳細に調査し、その結果に基づいて国会と内閣に勧告を行うという、透明性の高いプロセスを経て決定されています。

人事院の勧告内容や給与法、関連規定は公開されており、誰でもその情報を確認することができます。

また、勤勉手当の査定に関わる人事評価制度も、客観性や納得感を高めるための改善が進められています。

もちろん、税金の使途について厳しい目が向けられるのは当然のことです。しかし、公務員のボーナス制度は、民間企業との均衡を図りつつ、公共の利益を担う人材を確保・維持するための合理的な仕組みとして設計・運用されていると言えるでしょう。

この記事を通じて、公務員のボーナスに対する「なぜ?」「ずるい」といった感情が、少しでも「なるほど」という納得に変われば幸いです。