定年引き上げ

公務員は60歳で給与7割になると退職金も減る?ピーク時特例を解説

「60歳を過ぎると基本給が7割になるなら、退職金も3割減ってしまうのでは?」と考えるのは自然です。しかし、国家公務員の退職手当は、そのように単純に「退職時の7割の俸給だけ」で計算される仕組みにはなっていません。

定年引上げに伴い、国家公務員は原則として60歳に達した日後の最初の4月1日から俸給月額が60歳前の7割水準となります。一方、退職手当では、減額前の俸給月額も計算に反映する「ピーク時特例」が適用されます。

そのため、結論からいえば、基本給が7割になったからといって、退職金まで一律7割になるわけではありません。特に長期勤続で、給与が7割になる前に退職手当の支給率が上限に達している場合は、この仕組みを知っているかどうかで退職金の見え方が大きく変わります。

この記事のポイント

「7割」の対象
主に60歳以降の俸給月額
退職金への影響
基本給と同じ30%減ではない
試算で見るもの
減額前の俸給・勤続期間・職責

そもそも「60歳以降は7割」とは何が7割になる?

国家公務員の定年は2023年度から段階的に引き上げられています。2026年度の原則的な定年年齢は62歳で、2031年度から65歳となる予定です。定年が延びた一方、60歳を超える職員については、当分の間、俸給月額を60歳前の7割水準とする措置が設けられています。

ただし、「給与全体が機械的に70%になる」という意味でもありません。人事院の2026年4月版パンフレットでは、俸給の特別調整額など7割水準となる手当がある一方、扶養手当、住居手当、通勤手当などは7割水準としない手当として整理されています。また、地域手当や期末・勤勉手当などは俸給月額等に連動して計算されます。

項目 60歳以降の基本的な扱い 注意点
俸給月額 原則7割水準 60歳に達した日後の最初の4月1日から
一部の手当 7割水準 俸給の特別調整額など
地域手当・期末勤勉手当など 俸給月額等に連動 結果として減少する場合がある
扶養・住居・通勤手当など 一律7割にはしない 各手当の支給要件による
退職手当 一律7割にはならない ピーク時特例が重要

つまり、「基本給7割」「年収7割」「退職金7割」は、それぞれ別の話として考える必要があります。

公務員の退職金は「退職時の基本給だけ」で決まらない

国家公務員の退職手当は、大きく「基本額+調整額」で構成されています。人事院の資料では、通常の基本額について「退職日の俸給月額×勤続期間・退職理由に応じた支給率×調整率」という考え方が示され、これに在職中の職責を反映する調整額が加わります。

構成 何を反映するか ポイント
基本額 俸給月額・勤続期間・退職理由 給与が途中で下がった場合はピーク時特例が関係する
調整額 在職中の職責 職務の級などが高い月から原則60月分を加算

したがって、60歳以降の俸給月額だけを見て「40万円が28万円になるから、退職金も3割減る」と計算するのは正確ではありません。

「ピーク時特例」とは?減額前の基本給を退職金に反映する仕組み

ピーク時特例は、正式には国家公務員退職手当法第5条の2に定められている、俸給月額が途中で減額された場合の退職手当の基本額に関する特例です。基礎在職期間中に、俸給月額の減額改定(いわゆるベースダウン)以外の理由で俸給月額が下がり、減額前の俸給月額が退職日の俸給月額より高い場合に適用されます。定年引上げに伴う7割措置も、この対象として扱われます。

ポイントは、退職までの全勤続期間について「最後の7割の俸給」を掛けるのではなく、給与が下がる前までの期間と、下がった後の期間を分けて計算することです。

期間 計算に使う俸給月額 反映する支給率
給与減額前まで 減額前の最も高い俸給月額 減額日前日までの勤続期間に対応する部分
給与減額後 退職日の俸給月額 その後に増えた支給率の部分

人事院が示している式を簡略化すると、「減額前の高い俸給月額×減額前までの支給率」に、「退職日の俸給月額×減額後に増えた支給率」を加えるイメージです。実際の計算では、これらに所定の調整率が反映され、さらに調整額が加算されます。

なお、7割措置の直前よりも前に、さらに高い俸給月額のピークがある場合は、計算が複数段階になることがあります。過去の俸給履歴に大きな降格や俸給表間異動がある人は、直前の俸給月額だけで判断できません。

モデルケース|40万円が28万円になったら退職金はいくら変わる?

ピーク時特例の意味を分かりやすくするため、実際の個人の退職手当額を示すものではなく、計算構造だけを確認するモデルケースを考えます。

ここでは、60歳前の俸給月額を40万円、7割措置後の退職日俸給月額を28万円、給与が下がる時点の支給率を仮に40.0、最終的な支給率を42.0とします。説明を簡単にするため、両者に共通して掛かる調整率、調整額、管理監督職勤務上限年齢調整額などは省略します。以下は制度上の標準額ではなく、計算構造だけを見るための仮定です。

条件 モデル数値
減額前の俸給月額 400,000円
退職日の俸給月額 280,000円
減額前までの支給率 40.0
退職時の支給率 42.0

もしピーク時特例がなく、退職時の28万円だけで全期間を計算すると、モデル上の基本額は「28万円×42=1,176万円」です。

一方、ピーク時特例の考え方では、「40万円×40=1,600万円」に、減額後に増えた支給率2について「28万円×2=56万円」を加えます。合計は1,656万円です。

計算方法 説明用の計算値
退職時の28万円だけで計算した場合 1,176万円
ピーク時特例の考え方 1,656万円
この仮定での差 480万円

この480万円は「追加でもらえる特別手当」という意味ではありません。本来の退職手当を計算するときに、60歳まで積み上げた勤続期間について、7割に下がった後の俸給をそのまま当てはめない仕組みになっている、ということです。

さらに、給与が減額される時点ですでに支給率が上限に達している場合は、減額後に増える支給率がありません。その場合、ピーク時特例の第2部分は実質的に0となり、減額前の高い俸給月額を基礎にした部分が中心となります。これが「基本給が7割でも退職金まで7割にはならない」理由を最も分かりやすく表しています。

注意:「退職金は減らない」と「必ず同額」は同じではない

ピーク時特例は、7割措置後の俸給だけを使って過去の勤続期間まで一律に低く評価しないための仕組みです。しかし、実際の退職手当額は、減額前の俸給月額、退職時の俸給月額、勤続期間、支給率、調整額、過去の降任・俸給表間異動などによって変わります。

したがって、「60歳以降も働けば、誰でも60歳時点と完全に同じ退職金になる」と断定するのも正確ではありません。特に中途採用などで支給率がまだ上限に達していない場合は、60歳以降の勤続期間によって支給率が増え、その増加部分は退職日俸給月額を使って計算されます。

役職定年で給料が下がった管理職もピーク時特例の対象

60歳前後の管理職では、もう一つ重要なのが役職定年です。国家公務員では、原則として管理監督職勤務上限年齢は60歳とされ、60歳に達した日後の最初の4月1日までに、管理監督職から非管理監督職への降任等が行われます。

人事院の2026年4月版パンフレットでは、7割措置による俸給減だけでなく、管理監督職勤務上限年齢による降任等で俸給月額が減額された場合もピーク時特例の対象として明記されています。

また、役職定年による降任等を受けた職員には、一定の場合に「管理監督職勤務上限年齢調整額」が俸給として支給されます。退職手当の計算でも、退職日の俸給月額だけでなく、この調整額との合計額が関係するため、管理職経験者は特に単純計算をしにくい点に注意が必要です。

そのため、課長などの管理職だった職員は、「役職定年による降任」「60歳超の7割措置」「退職」という複数の段階を経る可能性があります。単純に最後の号俸だけを見て退職金を予想すると、実際の計算と大きくずれることがあります。

60歳で辞めるか、定年まで働くかでもう一つ重要な特例

ピーク時特例とは別に、60歳以降の退職には「退職理由」に関する措置があります。

国家公務員では、60歳に達した日以後、本人の非違によることなく退職した場合、当分の間、退職手当の支給率について「定年退職」として算定する措置が設けられています。つまり、定年が62歳、63歳と延びたからといって、60歳以降に自ら退職した人が直ちに通常の自己都合退職の低い支給率になるわけではありません。

ここで時期を混同しないことが大切です。退職手当の支給率に関する措置は「60歳に達した日以後」が基準ですが、俸給月額が7割になるのは原則として「60歳に達した日後の最初の4月1日」です。法令上の「60歳に達した日」は60歳の誕生日の前日を指すため、その日から直後の3月31日までに退職する場合などは、そもそも7割措置が始まる前に退職するケースもあります。

2026年度時点の原則的な定年年齢を整理すると、次のようになります。

期間 原則的な定年年齢
2025~2026年度 62歳
2027~2028年度 63歳
2029~2030年度 64歳
2031年度以降 65歳

定年まで常勤職員として勤務する場合、退職手当は実際に退職するときに支給されます。そのため、金額だけでなく「退職金を受け取る時期が60歳より後になる」という点も、老後の資金計画では確認しておきたいところです。

自分の退職金を見るときは「7割後の号俸」だけを見ない

60歳以降の退職手当を確認するときに最も重要なのは、現在の俸給月額だけを見るのではなく、「給与が下がる前はいくらだったか」まで確認することです。

特に確認したいのは、7割措置前の俸給月額、過去にそれより高い俸給月額がなかったか、減額時点までの勤続期間、退職までの勤続期間、退職時の俸給月額、調整額の対象となる過去の職務の級です。管理職経験者であれば、役職定年による降任前の給与も重要になります。

たとえば「60歳前40万円、現在28万円」という給与明細だけを見ると大幅に退職金が減りそうに見えます。しかし退職手当では40万円だった期間を切り捨てずに計算する仕組みが用意されているため、現在の28万円だけから退職金を逆算することはできません。

地方公務員は勤務先の退職手当条例も確認

この記事では国家公務員の制度を中心に説明しています。地方公務員については各自治体の条例が直接の根拠となるため、最終的には勤務する自治体の退職手当条例や人事担当部署の説明を確認する必要があります。

たとえば宮城県は、定年引上げ後の退職手当について、60歳超の7割水準支給にもピーク時特例を適用すると公式に説明しています。また、7割措置より前にさらに高い給料のピークがあった場合について、「2段階ピーク時特例」による計算例も示しています。

結局、基本給7割で退職金はどうなる?

国家公務員の場合、60歳以降に俸給月額が7割水準となっても、退職手当まで機械的に70%へ減額されるわけではありません。

その中心となる仕組みがピーク時特例です。給与が下がる前まで積み上げてきた勤続期間については、減額前の高い俸給月額を使って計算し、給与が下がった後に増えた支給率の部分だけを退職時の俸給月額で計算します。

したがって、60歳以降の給与明細を見て「基本給が30%下がったから、退職金も30%減る」と考える必要はありません。特に役職定年を迎える管理職や、長期勤続で支給率がすでに高い職員ほど、現在の給与額だけではなくピーク時特例を含めた退職手当の試算を見ることが重要です。

FAQ

60歳以降に基本給が7割になったら、退職金も7割になりますか?
国家公務員では一律7割にはなりません。定年引上げによる7割措置にはピーク時特例が適用され、減額前の俸給月額も退職手当の基本額に反映されます。
ピーク時特例は60歳以降だけの制度ですか?
いいえ。もともとは、降格や俸給表間異動など、俸給月額の減額改定(いわゆるベースダウン)以外の理由で俸給月額が下がった場合に用いられる仕組みです。定年引上げに伴う7割措置や、役職定年による降任等の給与減についても適用されます。
60歳で退職したら自己都合退職扱いになりますか?
国家公務員では、60歳に達した日以後に本人の非違によることなく退職した場合、当分の間、退職手当の支給率について定年退職として算定する措置があります。ただし、対象外となる職員もいるため個別確認が必要です。
役職定年で課長から降任した場合も、降任前の給料が考慮されますか?
管理監督職勤務上限年齢による降任等で俸給月額が下がる場合も、ピーク時特例の対象として人事院のパンフレットに示されています。実際の計算では過去の俸給履歴や管理監督職勤務上限年齢調整額なども関係するため、人事担当部署の試算で確認するのが確実です。
地方公務員も同じですか?
地方公務員は勤務する自治体の退職手当条例によります。国家公務員と同様のピーク時特例を設けている自治体がありますが、自分の自治体の条例・規則で確認してください。宮城県では60歳超の7割措置にもピーク時特例を適用すると公式に説明しています。

出典・作成方針

本文は国家公務員の一般的な制度を中心に整理しています。モデルケースの40万円、28万円、支給率40・42はピーク時特例の計算構造を分かりやすくするための参考値であり、実在する職員の退職手当額を示すものではありません。実際の支給額は俸給履歴、勤続期間、退職理由、調整額、適用される法令・条例などによって異なります。

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